お見合い

私は２０歳そこそこの頃、「お見合い」をしたことがある。もちろん、仲人の出てくるような本格的なものではない。親友（ツレ）がずーと独り者の私を見るに見かねての工作をしたのでまんまとのっかっただけのことだ。

喫茶店で待ち合わせをしたのだが、３０分以上遅刻されてしまった。親友は怒ってはいなかったが、途中で帰ってしまった。人を待たすのは得意なのだが、待たされるのは苦手なツレであった。不安の中、彼女は現れたのだが、キツネ目の女だった。見るからに私が苦手そうな女だったように思う。看護婦だというので確か、今日の医学について滔々と話をしたのを覚えているだけだ。

もちろん、その日以降、会うこともなかった。相手の女性もその友達も私のことを「変な人じゃった！」と話したことだろう。ツレも懲り懲りと思ったのか、二度と口に出すことはなかった。私も浪人だったし、もちろん、女もいなかった。話ができただけでも良かったと思うべきなのだろう。自分という存在に自身が持てなかったし、それ以上の付き合いはできなかったというのが真相だろう。

ツレは、若い頃から恋人が途切れたことがないと豪語するほどのモテモテ男だった。実際に、温かい人間なので誰も認めざるを得なかった。短気なところが玉にキズだが、女から見ると「男らしい」のかもしれない。自分は調子よく行くので私にもと思ってくれたのかもしれない。深く聞いたことはないのだが、今度田舎に帰ったら聞いてみよう。ただ、他人の恋愛というのは、思うほどうまくは行かないとは思っただろうと思う。相手が「私」であることを考慮すれば、最初から成立するとは思っていなかっただろうと思う。

以後、私の女性遍歴はロクなもんではないのだが、なんと、女から見初められるという経験も持っている。相手は、１年後輩の女性だった。私は、高校が主催する予備校に２年も通ったものだから、後輩と接する機会があったのだ。図書館で待ち合わせをしたのだが、最初に来たのが、私がお気に入りの彼女だった。彼女が言うには、「友達が外で待っています。」ということだった。私の落胆はひどいものだった。この美人の彼女は、何というおせっかいをするのか。恐る恐る外に出て行ったが、そこに待っていたのは、当時の私とは非常に対照的なくらいしっかりとした体型の彼女だった。

この彼女とは、お茶を飲んで別れた。その後、図書館で会うこともあったが、勉強するのみで言葉も交わさなかった。しかし、べっぴんの友達がまたおせっかいにも、「たまには会ってあげてください。かわいそうなくらいなんです。」とある時、言ってきたこともあった。私の心をもてあそぶかのように。彼女も恐らく性格も良さそうだし、男に困ったことは無かったのだろう。自分の感覚で「友達の世話」をまじめにしてあげただけなのだろう。

だが、男と女というのは不合理なもので、男の方は、とびっきりのべっぴんがいつも好きだし、女は女で美形の男を好む。少なくとも私は、自分のことはおかまいなく忠実に自分の好みを追求して、完全に無視されることの繰り返しだ。べっぴんの彼女から見て私と友達はお似合いか、結ばれればいいと思ったのかもしれないが、余計なお世話だ。怒っているわけではないのだが、放っておいてくれればいいものを、と思う。女に相手にされない男にとって、「こんな人どう？」という申し出は、からかいに等しい。完全無視されるような女をいつも好むからだ。

無理してくっついて、不幸な家庭を作るよりも、永遠に「完全無視」の片思いを続ける方が、少なくとも幸福なのではないか。好みの問題なのでどうしようもない。京都時代にもぞっこんの彼女がいたのだが、もちろん片思いだった。思えば、あの頃からずっと「完全無視」の片思いが続いている。しかし、男の習性を考えるときどちらが、健全かといえば、完全無視の片思いの方なのだ。少なくとも私は、他人が「いい人だから」とすすめてくれた女とはつき合えないことを学んだ。