喜び

男が「つれ」と言えば女のつれのことを指すのかもしれないが、私流では、男の親友のことだ。この年末も二人きりの忘年会をやってきた。その後、朝まで歌ってきた。去年よりも少し違っていたのは、あるスナックへ行った時のことだった。

ちょっとかわいい感じの女の子がいた。私も少しはしゃべったが、あいさつ程度だ。つれは、結構しゃべっていたと思うが、聞けば自分の店によく来てくれるのだという。私は、何度かこういう光景を見たのを思い出して、「気があるんか？」と聞いてみたが「ば、ばかな！」ということらしい。年齢的な迷いもあるのだろう。

つれは、バツイチで子供もいた。今は、離れて暮らしていて、会いたいが会えないでこれまで生きてきた。無邪気なな私は、「おめえ、会いとうねえんかな？」と聞いたことがあるのだが、つれは、「会いとうねえわけねえじゃろう。」と返していた。

つれは、温かい人間で高校時代からよくもてた。結婚相手となる彼女のこともよく聞いていたのだが、私が最後に話を聞いた時にはお腹に子供ができていた頃だった。どうするのかと思ったらそのまま結婚してしまった。男と女のことに疎い私は、「もう、夫婦同然じゃが。」と二人をけしかけたこともあった。後年、離婚後、冗談でつれに「おめえのせいじゃ。」と言われた時には笑えなかった。つれにこそ結婚相手にふさわしいかどうかをずばり言うべきだったっと後悔した。その彼女は、つれとつきあうには、ちょっと気が強すぎると思った。

年末に会ったかわいい感じの彼女はどうかと言うとかわいいが、やはり気が強そうだった。しかし、印象は良かった。かわいい感じの女が好きなつれには少なくとも表面上はお似合いのような気がした。だから、その気ならば行きんせいよ、とメールしておいた。

つれもそうだが、普通の男は好きな相手を好きだと思って見つめることには遠慮がない。堂々とスキスキ光線を送るそうだ。年末のつれもそうだったように思う。彼女のお母さんとよく話していたのだが、お目当ては娘の方だったと思う。私は、２０代の頃、ある女性に「あんたは、好きな相手にあからさまなスキスキ光線を送らなさ過ぎる。」と言われたことがある。確かにそうだろう。おっさんになってもそうなのだが、恥ずかしくてできないのであった。つきあってくれと言えばいいものを「結婚してくれ。」と言ってみたり、ヒジョーにぎこちないのであった。恋愛経験に乏しい男とはそんなものだと思うのだが、現実には悲惨な結末を迎える。

つれに子供ができた時だった。私はつれとテニスをする約束をしていたのだが、できなくなった。子供ができたことの喜びを共に分かち合えず、テニスができなくなったことを残念に思ったことを今でもハッキリ覚えている。そして、悔やんでいる。今ならば、たとえ経験が無くとも子供ができたと言われれば、共に喜べるはずなのだ。なぜ、親友と思っているつれにハッキリと心からの喜びの気持ちを伝えられなかったのかわからないが、後悔の気持ちが強い。私の弱点である、器の小ささのなせるわざなのだと思う。

それだから余計に思うのかもしれないのだが、この恋が成就してくれたらなあと思う。つれは、もう十分すぎるほど精進したのではないかと思う。これからでもどんどん子供を作って私にお手本を見せて欲しいと思う。私は、少なくともエロ光線ではなくスキスキ光線が送れるようにならないと当分は無理なような気がする。東京までの帰りにつれと合同結婚式をあげる光景を夢想したのだが、本当にそうなれば楽しいだろうなと思った。